Танидзаки Дзюнъитиро - Ключ / 鍵. Книга для чтения на японском языке стр 3.

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僕ハ俯向キニ寝テイル妻ノ体ヲモウ一度仰向キニ打チ反シタ。ソウシテシバラク眼ヲモッテソノ姿態ヲ貪《むさぼ》リ食イ、タダ歎息シテイルバカリデアッタ。フト僕ハ、妻ハホントウニ寝テイルノデハナイ、タシカニ寝タフリヲシテイルノニ違イナイト思ワレテ来タ。彼女ハ最初ハホントウニ寝テイタラシイガ、途中カラ眼ガ覚メタノダ。覚メタケレドモ事ノ意外ニ驚キ呆《あき》レ、アマリニ羞《はずカ》シイ恰好《かっこう》ヲシテイルノデ、寝タフリヲシテ通ソウトシテイルノダ。僕ハソウ思ッタ。ソレハアルイハ事実デハナク、僕ノ単ナル妄想デアルカモ知レナイガ、デモソノ妄想ヲ僕ハ無理ニモ信ジタカッタ。コノ白イ美シイ皮膚ニ包マレタ一個ノ女体ガ、マルデ死骸ノヨウニ僕ノ動カスママニ動キナガラ、実ハ生キテ何モカモ意識シテイルノダト思ウハ、僕ニタマラナイ愉悦《ゆえつ》ヲ与エタ。ダガモシ彼女ガホントウニ睡ッテイタノダトスレバ、僕ハコンナ悪戯ニ耽《ふけ》ッタヲ日記ニ書カナイ方ガヨイノデハアルマイカ。妻ガコノ日記帳ヲ盗ミ読ミシテイルハホトンド疑イナイトシテ、コンナヲ書イタラ今後酔ウヲ止メハシナイカ。イヤ、恐ラク止メハシナイデアロウ、止メタラ彼女ガコレヲ盗ミ読ミシテイルヲ証拠立テルヨウナモノデアルカラ。彼女ハコレヲ読ミサエシナケレバ、意識ヲ失ッテイル最中ニ何ヲサレタカ知ラナイハズナノデアルカラ。

僕ハ午前三時頃カラ約一時間以上モ妻ノ裸形ヲ見守リツツ尽キルノナイ感興ニ浸ッテイタ。モチロンソノ間タダ黙ッテ眺メテイタバカリデハナイ。僕ハ、モシ彼女ガ空寝入リヲシテイルノダトスレバ、ドコマデソレヲ押シ通セルカ試《ため》シテヤレトイウ気モアッタ。最後マデ空寝入リヲセザルヲ得ナイ羽目ニ陥レテ困ラセテヤレトイウ気モアッタ。僕ハイツモ彼女ガ厭《いや》ガッテイルトコロノ悪戯ノ数々、彼女ニ云ワセレバ執拗イ、恥カシイ、イヤラシイ、オーソドックスデナイトコロノ痴戯ちぎノ数々ヲ、コノ機会デアルト思ッテ代ル代ル試ミテヤッタ。僕ハ何トカシテアノ素晴ラシイ美シイ足ヲ、思ウ存分ワガ舌ヲモッテ愛撫シ尽シタイトイウ長イ間心ニ秘メテイタ念願ヲ、始メテ果タスガデキタ。ソノ他アラユル様々ナヲ、彼女ノ常套語《じょうとうご》ヲ真似《まね》レバ、ココニ書キ記スノモマコトニ恥シイヨウナイロイロナヲシテミタ。一度僕ハ、彼女ガイカナル反応ヲ示スカト思ッテアノ性慾点ヲ接吻シテヤッタガ、誤ッテ眼鏡ヲ彼女ノ腹ノ上ニ落シタ。彼女ハソノ時ハ明ラカニハットシテ眼ヲ覚マシタラシク瞬《しばたた》イタ。僕モ思ワズハットシテ慌《あわ》テテ螢光燈ヲ消シ、一時室内ヲ暗クシタ。ソシテルミナール一錠トカドロノックス半錠トヲ、ストーブノ上ニカカッテイタ湯沸シノ湯ニ水ヲ割リ微温湯ヲ作ッテ飲マシタ。僕ガ口移シニスルト、彼女ハ半バ夢見ツツアルカノゴトキ様子デ飲ンダ。(ソノクライノ分量ヲ服シテモ利カナイハ利キハシナイ。僕ハ必ズシモ睡ラセルノガ目的デ飲マシタノデハナイ。彼女ガ睡ル真似ヲスルノニ都合ガヨカロウト思ッテ飲マシテヤッタノデアル)

彼女ガ睡リ込ンダ(モシクハ睡リ込ンダ風ヲシタ)ノヲ見定メテカラ、僕ハ最後ノ目的ヲ果タス行動ヲ開始シタ。今夜ハ僕ハ、妻ニ妨ゲラレルナク、スデニ十分ニ豫備運動ヲ行イ、情慾ヲ掻キ立テタ後デアッタシ、異常ナ興奮ニフルイ立ッテイタ際デアッタカラ、自分デモ驚クホドノヲ行ウガデキタ。今夜ノ僕ハイツモノ意気地ノナイ、イジケタ僕デハナクテ、相当強力ニ、彼女ノ淫乱ヲ征服デキル僕デアッタ。僕ハ今後モ頻繁ニ彼女ヲ悪酔イサセルニ限ルト思ッタ。トコロデ彼女ハ、彼女ノ方モ数回ニ亙リ事ヲ行ッタニモカカワラズナオ完全ニハ睡リカラ覚メテイナイヨウニ見エタ。ナオ半醒半睡《はんせいはんすい》ノ状態ニアルカノゴトクデアッタ。時々彼女ハ眼ヲ半眼ニ見開イタガ、ソレハアラヌ方角ヲ見テイタ。手モユックリト動カシテイタガ夢遊病者ノヨウナ動カシ方デアッタ。ソシテ今マデニナイニハ、僕ノ胸、腕、頬《ほお》、頸《くび》、脚ナドヲ手デ探ルヨウナ動作ヲシタ。彼女ハコレマデ決シテ必要以外ノ部分ヲ見タリ触レタリシタガナカッタノダ。彼女ノ口カラ「木村サン」トイウ一語ガ譫語《うわごと》ノヨウニ洩《も》レタノハコノ時ダッタ。カスカニ、実ニカスカニ、タッタ一度ダケデアッタガ、確カニ彼女ハソウ云ッタ。コレハホントウノ譫語ダッタノカ、譫語ノゴトク見セカケテ故意ニ僕ニ聞カセタノデアルカ、コノハ今モナオ疑問ダ。ソシテイロイロナ意味ニ取レル。彼女ハ寝惚ケテ、木村ト情交ヲ行ッテイルト夢見タノデアルカ、ソレトモソウ見セカケテ、「アヽ木村サントコンナ風ニナッタラナア」ト思ッテイル気持ヲ、僕ニ分ラセヨウトシテイルノデアロウカ、ソレトモマタ、「私ヲ酔ワセテ今夜ノヨウナ悪戯ヲスレバ、私ハイツモ木村サント一緒ニ寝ル夢ヲ見マスヨ、ダカラコンナ悪戯ハオ止メナサイ」トイウ意味デアロウカ。

夜八時過木村カラ電話。「ソノ後奥サンハイカガデスカ、オ見舞イニ伺ウハズナノデスガ」ト云ウノデ、「アレカラマタ睡眠剤ヲ飲マシタノデマダ寝テイル、別ニ苦シンデハイナイラシイカラ心配ニ及バヌ」ト答エル。


一月三十日。あれからまだずっとベッドにいる。時刻は今午前九時半。月曜で夫は三十分ほど前に出かけたらしい。出かける前そっと寝室にはいって来、私が空寝入りしていると、しばらく寝息を窺《うかが》ってもう一度足に接吻して出て行った。婆やが「御気分はいかがですか」と云ってはいって来たので、熱いタオルを持って来させ、室内の洗面台で簡単に顔を洗い、牛乳と半熟卵を一個持って来させた。「敏子は」と云うと「お部屋にいらっしゃいます」ということだったが姿を見せない。私はもう気分も良くなり、起きて起きられなくはないのだが、寝たまま日記をつけることにして一昨夜以来の出来事を静かに思い返している。いったい一昨日の夜はどうしてあんなに酔ったのかしら。体の工合《ぐあい》もいくらかあったに違いないが、一つにはブランデーがいつものスリースタースではなかった。夫はあの日新しいのを一本買って来たのだが、ブランデー・オブ・ナポレオンと書いてある、クルボアジエという名のブランデーであった。私には大層口あたりが好かったので、つい度を過した。私は人に酔ったところを見られるのが嫌いやなので、飲み過ぎて気分が悪くなると便所へ閉とじ籠こもる癖があるのだが、あの晩もそうであった。私は何十分間ぐらい便所に籠っていたのだろうか。何十分? いや一時間も二時間もではなかったろうか。私はちっとも苦しくはなかった。苦しいよりは恍惚《こうこつ》とした気持だった。意識はぼんやりしていたけれども全然覚えがないわけではなく、ところどころ分っている部分もある。あまり長時間便器に跨《こ》またがって蹲踞うずくまっていたので、腰や脚が疲れて、いつの間にか金隠しの前に両手をついてしまい、とうとう頭までべったり板の間についてしまっていたことも、うろ覚えに思い出される。そして私は体じゅうが便所臭くなった気がして外へ出たのであったが、その臭気を洗い落すつもりだったのか、まだ足もとがふらついているので人に遇《ぐう》あうのが嫌だったのか、そのまま風呂場へ行って着物を脱いだのであったらしい。らしいというのは、何か遠い遠い夢の中の出来事のように記憶に残っているのだが、それから先はどうなったのか思い出せない。(右の上膊部《じょうはくぶ》に絆創膏《ばんそうこう》が貼《は》ってあるのは誰かに注射されたのらしいが児玉先生でも呼んだのだろうか)気がついた時はすでにベッドの中にいて、早い朝の日光が寝室を薄明るくしていた。それが昨日の払暁の午前六時頃のことだったらしいのだが、それ以後ずっと意識がハッキリしつづけていたわけではない。私は頭が割れるように痛み、全身がズシンと深く沈下して行くのを感じつつ幾度も眼が覚めたり睡ったりすることを繰り返していた、いや、完全に覚め切ることも睡り切ることもなく、その中間の状態を昨日一日繰り返していた。頭はガンガン痛かったけれども、その痛さを忘れさせる奇怪な世界を出たりはいったりしつづけていた。あれはたしかに夢に違いないけれども、あんなに鮮かな、事実らしい夢というものがあるだろうか。私は最初、突然自分が肉体的な鋭い痛苦と悦楽との頂天に達していることに心づき、夫にしては珍しく力強い充実感を感じさせると不思議に思っていたのだったが、間もなく私の上にいるのは夫ではなくて木村さんであることが分った。それでは私を介抱するために木村さんはここに泊っていたのだろうか。夫はどこへ行ったのだろうか。私はこんな道ならぬことをしてよいのだろうか。しかし、私にそんなことを考える餘裕《あまりゆう》を許さないほどその快感は素晴らしいものだった。夫は今までにただの一度もこれほどの快感を与えてくれたことはなかった。夫婦生活を始めてから二十何年間、夫は何とつまらない、およそこれとは似ても似つかない、生ぬるい、煮えきらない、後味の悪いものを私に味あわせていたことだろう。今にして思えばあんなものは真の性交ではなかったのだ。これがほんとのものだったのだ。木村さんが私にこれを教えてくれたのだ。私はそう思う一方、それがほんとうは一部分夢であることも分っていた。私を抱擁している男は木村さんのように見えるけれども、それは夢の中でそう感じているので、実はこの男は夫なのだということ、夫に抱かれながら、それを木村さんと感じているのだということ、それも私には分っていた。多分夫は、一昨日私を風呂場からここへ運び込んで寝かしつけておいてから、私が意識を失っているのをよいことにして私の体をいろいろと弄《ろう》もてあそんだに違いない。私は彼があまり猛烈に腋の下を吸いつづけるので、ハッとして或る一瞬間意識を回復した時があった。彼がその動作に熱中し過ぎて掛けていた眼鏡を落したのが、私の脇腹《わきばら》の上に落ちてヒヤリとしたので、とたんに私は眼を覚ましたのだった。私は体じゅうの衣類を全部キレイに剥《は》ぎ取られ、一絲も纏《まと》わぬ姿にされて仰向けに臥《が》ねかされ、フローアスタンドと、枕元の螢光燈《けいひかりひ》のスタンドとが青白い圏《けん》を描いている中に曝されていた。そうだ、螢光燈の光があまり明るいので眼が覚めたのかも知れない。それでも私はただボンヤリしていただけであったが、夫は私の腹の上に落ちた眼鏡を拾って掛け、腋の下を止めて下腹部のところに唇を当てて吸い始めた。私は反射的に身をすくめ、慌てて体を隠そうとして毛布を探ったのを覚えているが、夫も私が眼を覚ましかけたのに気がついて私に羽根布団《はねぶとんと》毛布を着せ、枕元の螢光燈を消し、フローアスタンドのシェードの上に覆いを被せた。寝室に螢光燈などが置いてあるわけはないのだが、夫は書斎のデスクにあるのを持って来たのだ。夫は螢光燈の光の下で、私の体のデテイルを仔細に点することに限りない愉悦を味わったのであろうと思うと、私は私自身でさえそんなに細かく見たことのない部分々々を夫に見られたのかと思うと、顔が赧《あか》くなるのを覚える。夫はよほど長時間私を裸体にしておいたのに違いなく、その証拠には、私に風邪を引かせまいために、そうしてまた眼を覚まさせまいために、ストーブを真赤まっかに燃やして部屋を異常に煖《あたた》めてあった。私は夫に弄ばれたことを、今になって考えると腹立たしくも恥かしく感じるけれども、その時はそんなことよりも頭がガンガン疼うずくのに堪えられなかった。夫が、カドロノックスかルミナールかイソミタールか、何か睡眠剤だったのだろう、水と一緒にタブレットを噛《か》み砕いたものを口うつしに飲ましたが、頭の痛みを忘れたいので私は素直にそれを飲んだ。と、間もなく私はまた意識を失いかけ、半醒半睡の状態に入ったのだった。私が、夫ではなくて木村さんを抱いて寝ているような幻覚を見たのはそれからであった。幻覚? というと、何かぼうっと今にも消えてなくなりそうに空くうに浮かんでいるもののようだけれども、私が見たのはそんな生やさしいものではない。私は「抱いて寝ているような幻覚」と云ったが、「ような」ではなく、ほんとうに「抱いて寝てい」た実感が今もなお腕や腿ももの肌はだにハッキリ残っているのである。それは夫の肌に触れたのとは全く違う感覚である。私はシカとこの手をもって木村さんの若々しい腕の肉を掴つかみ、その弾力のある胸板に壓おしつけられた。何よりも木村さんの皮膚は非常に色白で、日本人の皮膚ではないような気がした。それに、あゝ、恥かしいことだが、よもやよもや夫はこの日記の存在を知るはずはないし、まして内容を読むわけはないと思うので書くのだけれども、あゝ、夫がこの程度であってくれたら、夫はどうしてこういう工合に行かないのだろう。実に奇妙なことなのだが、私はそう思いながらそれが夢であることも、夢といっても、一部分が現実で、一部分が夢であることを、というのは、ほんとうは夫に犯されているのであって、夫が木村さんのように見えているのであるらしいことも、意識のどこかで感じていた。ただそれにしてはおかしいのは、あの内容の充実感だけが、夫のものとは思われない壓覚《あつさとる》あっかくだけが、依然として感じられているのであった。

もしあのクルボアジエのお蔭《かげ》であのように酔うことができるのであったら、そしてあのような幻覚を感じることができるのであったら、私は何度でもあのブランデーを飲ましてほしい。私は私にああいう酔いを教えてくれた夫に感謝しなければならない。だがそれにしても、私が幻覚で見たものは、果して実際の木村さんなのであろうか。私は現実には木村さんの容貌《ようぼう》衣服を通しての姿態を知っているだけで、まだ一遍もハダカを見たことはないのに、どうしてそれが幻覚になって出て来たのであろうか。あれは私の空想している木村さんであって、現実の木村さんとは違うのであろうか。一度私は、夢や幻覚でなく、実際に木村さんのハダカの姿を見てみたい気がする。


一月三十日。正午過木村カラ学校ヘ電話、「御容態ハイカガデスカ」ト云ウカラ「今朝僕ガ出カケル時マデハ寝テイタガモウ何デモナサソウダ。今夜マタ飲ミニ来テクレタマエ」ト云ッタラ、「トンデモナイ、一昨夜ノ晩ハビックリシマシタ、少シ先生モ慎ンデ下サイ。シカシトニカクオ見舞イニ参リマス」ト云ッテイタガ、午後四時ニ来タ。妻モモウ起キテ茶ノ間ニイタ。木村ハ「モウスグ失礼シマス」ト云ッタガ、「今夜ハゼヒ飲ミ直ソウヨ、マアイイマアイイ」ト僕ハ強ク引キ止メタ。妻モ傍そばデソレヲ聞キナガラニヤニヤシテイタ。決シテ嫌ナ顔ハシテイナカッタ。木村モ口デハソウ云イナガラソノ実腰ヲ上ゲル様子ハナカッタ。木村ハ一昨日ノ深夜、彼ガ辞去シタ後ニワレワレノ寝室ニオイテイカナル事件ガ起ッタカヲ知ルハズハナイノダガ、(僕ハ一昨夜夜ガ明ケル前ニ螢光燈ヲ二階ノ書斎ニ戻シテオイタ)、ソシテマタ、マサカ自分ガ郁子ノ幻影ノ世界ニ現ワレ、彼女ヲ陶酔セシメタヲ知ッテイルハズハナイノダガ、ニモカカワラズ、内心郁子ヲ酔ワセタガッテイルカノゴトキ様子ガ見エルノハ何故デアロウカ。木村ハ、郁子ガ何ヲ欲シテイルカヲ知ッテイルカノゴトクデアル。知ッテイルトスレバ、ソレハ以心伝心デアロウカ、アルイハ郁子カラ暗示サレタノデアロウカ。タダ敏子ダケハ、三人デ酒ガ始マルト必ズ嫌ナ顔ヲシテ自分ダケサッサト切リ上ゲテ出テ行ッテシマウ。

今夜モ妻ハ中座シテ便所ニ隠レ、ソレカラ風呂場(風呂ハ一日置キナノダガ、当分毎日沸カスニスルト妻ハ婆ヤニ話シテイタ。婆ヤハ通イナノデ夕方水ダケ張ッテオイテ帰リ、瓦斯ガスニ火ヲ付ケルノハワレワレノウチノ誰カナノダガ、今夜ハ時分ヲ見計ラッテ郁子ガ付ケタ)ヘ行ッテ倒レタ。スベテ一昨日ノ通リデアッタ。児玉氏ガ来テカンフルヲ射シタ。敏子ガ逃ゲタノモ、木村ガ適当ニ介抱シテ辞去シタノモ先夜ト同ジ。ソノ後ノ僕ノ行動モ同ジ。ソシテ最モ奇怪ナノハ、妻ノアノ譫語《うわごと》モ同ジ。「木村サン」トイウ一語ガ今夜モ彼女ノ口カラ洩レタ。彼女ハ今夜モ同ジ夢、同ジ幻覚ヲ、同ジ状況ノ下ニオイテ見タ?僕ハ彼女ニ愚弄《ぐろう》サレテイルト解スベキナノデアロウカ。

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